増税、還元、キャッシュレス。 そして明日は、ホープレス。

長編小説を載せました。(読みやすく)

コメディは難しい④(ギャップ編)

       以前、私は作家の筒井康隆先生が嫌いだった。

学生の時、テレビで見た筒井先生の容姿、口調が殊更偉そうに見えたからだ。

 

 それから、十年以上が過ぎたある日。

再び、筒井先生をバラエティー番組で見ることになる。

学生の時に見たままの印象。いや、白髪になり更に重鎮感が増したように映る。

和服姿で偉そうに口ひげを蓄えて腕を組んでいた。

偉そう、傲慢という勝手な偏見と無知に凝り固まっていた私は、また偉そうな事をいうのだろうと、ひねた視線で眺めていた。

 筒井先生が自身のエピソードを話し出す。

落ち着き払った作家の大家の様に、堂々と風呂に入るまでを低音の声で話していたと思う。

 

 私は批判的に煙草を咥えた。

回りくどいな・・・。

そんな印象で早く話が終わらないかとさえ思い、集中力も削げ、横になってタバコに火を付けた。

 

「それでね、風呂の排水溝に金玉が吸い込まれたんだよ」

 

「えっ?」 

私は咥えタバコのまま、聞き間違えたかとテレビに見入る。

 

 筒井先生は、その時の状況を振り返りながら、和服姿で自身の股間を指さし、「風呂に入りながら掃除をしようかと思って、排水の栓を抜いたら、金玉が吸い込まれたんだよ・・・」と非常にクソ真面目な顔で言っていた。

私はあまりにもくだらなさ過ぎて、タバコの煙を噴出した。

 

 筒井先生は、自身のエピソードを話し終えると再び席に座り、悠々と腕を組んでいた。

 

 私は、やられた~っ!と頭を抱えた。

筒井先生は、笑わせる為に、わざと普段から高尚で威厳のある装いを演じていたのかーっ!

 まさに、不意打ちだった。

真面目な事しか言わなさそうな人間が、唐突に下ネタを放り込んでくると、そのギャップも相まって笑ってしまう。

 

※ご本人に確認していませんので、私の勝手な憶測です

 

 これを転機に、私は筒井康隆という作家に興味を抱いた。

翌日かは忘れてしまったが、私の嗜好品を扱った著書「最後の喫煙者」等の短編集を買った。

この短編小説を読みながら、まさに現代社会を予知していたかの様で、

「う~ん」とうなってしまった。

読み終えた後、やけに世の中の正義または、誹謗中傷、クレームというものが滑稽とさえ思う。 

 

 まるで社会正義であるかの如く、喫煙者を攻撃する人間も、いずれ攻撃対象となるだろう。

何故なら、タバコの煙の害と自動車の排気ガスの害は、どちらが人体に害悪をもたらすのか?

その詳細なデータ(タバコと排気ガスの濃度を同一にして比較)もせぬまま、自動車等には文句も言わず、喫煙者を狙い撃ちしている。

まさに、偏見だ。

(彼らの言い分からすると、自動車は世の中になくてはならないという理屈。人体に害があっても・・・)

 

 私は酒がなくても平気だが、次の標的は、酒である。

もうすでに始まっており、酒が脳に悪影響を及ぼすという声がちらほらと聞こえている。

 

 更に、次の攻撃目標は、ゴルファーかもしれない。

何故なら、自然を壊すからだと言い出しかねない。

 スキー、スノボー愛好者も同様な理由で攻撃されるかもしれないのである。

文句をつけようと思えば、おおよそのものに文句をつけられるだろう。

人間自体が、直接的間接的に自然を破壊しているのだが、それを棚に上げて言うのである。

 したがって、私はトラックの排気ガスにも苦情は言わないし、酒飲みにも文句を言わない。

ましてやゴルファーにもスキー、スノボー、動物園にも文句など言うことない。

私は、負い目のある喫煙者だからだ。

 

 最後に、筒井先生は笑いを演出するためではないだろうが、見た目と話す内容のギャップにより笑いを誘った。

 言い換えれば、人間の偏見の作用を狙ったものともいえるかもしない。

しかし、その人その人のイメージが重要となる。

私の場合は、下ネタを言ってはいけない部類の人間らしいエピソードで締めくくりたい。

 

 私の勤める会社の近くにスーパーがある。

昼食時には、弁当とバナナを買って職場で食べることが多い。

職場には当然、女性職員もおり、昼食を食べない人もいる。

 ある女性職員が何も食べていなかったので、何の思惑や意図もなく声をかけた。

「バナナ上げようか?ほらっ」と聞いたら、あからさまにイヤな顔をして立ち上がった。

「セクハラですか・・・」

「えっ!なんで」

 私はセクハラ疑惑の冷ややかな視線を向ける女子職員が立ち去る中、周囲の男性職員にすがる様に情けない顔を向けると、これまたニヤけた薄ら笑いを向けられた。

「紺野さん、反ったバナナを突き付けて上げようかって、ビミョーに下ネタだろう・・・」

「ちがうちがうっ。全くそんなの考えてなかったんだよっ」

 それを見ていた他の女性職員が、私を嘘つきの犯罪者でも見るかの様に言ってきた。

「え~っ、なんか言いそうな顔してますよ」

「なんだよっ、セクハラ言いそうな顔って、冗談じゃないっ」

「怒るところが、また怪しい・・・」

もう何を言っても言い訳にしかならないので、疑惑の眼差しを向けてくる女性に

「お前の車にバナナ投げるぞっ!」と毒づいた。

「それも、なんかセクハラ~っ」と言い返されてしまった。

「ちがう、マリオ・カートだっ」と言っても、一度持たれた疑惑を覆すのは難しい。

ほぼ、何を言って無駄なのだ。

 

 このことがあってから、私は女性にバナナを勧める事を一切止めている。

どうやらギャップがなかったらしい・・・。

 

      コメディは難しい・・・。