人間界、職場にも存在する、ハト吉。
私はハトがキライだ。
公園にいるハトが特にキライだ。
かわいいスズメにちょっとだけ昼食のパンを千切って上げると、警戒しながらもチュンチュンと寄ってくる。
ちびちびと食べる姿。
写真を撮って、思わず和む。
すると、どこからかぎつけたのかハトがバサバサと舞い降りる。
体を膨らませながらスズメたちを威嚇し、1匹残らず蹴散らし追い払う。
そして、私のパンを奪おうとする。
なんと浅ましい。
(スズメを追い散らし、いきがるハト一団)
パンくずに飽き足らず、木くずさえもつばんで吐き出す姿は、
まさに悪食。
映画「セブン」であったら、真っ先にケビン・スペイシーの制裁を受けるだろう。
そしてまた、あの首。
歩く度に前後させる動きもムカつきを助長させる。
私は間髪入れず追い払う。
すると、バサバサとダニやら雑菌やらを撒き散らして飛び去るのだ。
飛ぶなっ!
歩けっ!
撒き散らすな!
場を濁すなっ!
スズメは警戒してチョコチョコと様子を見ながら距離感をはかるからカワイイ。
一方、ハトはバカにした様な厚かましい動き。
なにかもらえるのが当たり前だという図々しさで警戒心もなく近づいてくる。
そして、いきなりバサバサと一斉に飛び去り、私のわずかな休憩時間を乱して去ることが許せない。
だから、ハトがキライなのだ。
人間界、そして職場にも、こういった人物が一人や二人存在する。
お土産や差し入れをもらうだけもらって、自分ではほとんど持ってこない人物。
私はこういった人物を男女問わずハト吉と呼ぶ。
例えば、数人で残業している時。
同僚の一人がキットカットやコンビニ・スイーツなどを気を使って買ってきてくれた事があった。
ハト吉は、何か買ってきた人に敏感なのだ。
決め手はビニール袋。
袋を持った人を見ると、薄ら笑いを浮かべて背後から忍び寄る。
そして、食べ物だと確信すると、何気なくあたりをウロつく。
次に、「差し入れです」という言葉を聞くと、お礼を仰々しく述べつつも、すでに自分好みのビターチョコやクランベリーに目を付けて、何気なくすーぅと手を伸ばし、ニヤつきながら事の他嬉しそうに喰らうのだ。
そして、会話を主導するタイプと聞き役タイプが、寄り添って談笑を始める・・・。
お菓子繋がりで「どこどこのチョコ美味しかった」とか
「ジャン=ポール・エヴァンは高いだけあって美味しい」とか能書きをタレ始める。
その間にも、ためらう事なく第二、三の手を伸ばすのだ。
そして、「萩の月は美味しい」だの「大福にみかん一個丸ごと入った物は、人が並ぶほど美味しんだよね」だのと、和のスイーツに話を拡大するのだ。
そして、菓子が少なくなると、さも忙しそうにその場から立ち去ってしまうのだ。
まるで、「美味しんぼ」の海原雄山の様に美食を知り尽くした様な口ぶり。
海原雄山はダメ出しをしたら、その後本当に美味い物を振る舞う。
まあ、押し付けがましい事はこの上ないが・・・
だが、ハト吉は知ったかぶるだけ。
呆れた私は、わざわざ差し入れを買ってきてくれた人に目を向けた。
時を同じくして目が合った。
当然、シラけ気味にお互いに微笑む。
「出たよ、ウンチクたれ。安い菓子で悪かったなっ!」と。
その意を汲んで私もうなづく。
こういったウンチクたれは、男女問わず上役とその腰巾着が多いのだ。
私はこうしたハト吉が、過去にどんな土産を買ってきたのかと記憶を辿ってみても、思い出せない。
正月明けとか、旅行に行った様な話を聞いた事はあるけど、自分から何か買って来た事はないのだ。
食うだけ食って能書きたれて、その場を気まずくさせて去ってゆく。
だったら食うなっ!
外の小枝でも食っていろっ。
そういうハト吉に限って、職場内でお土産とか差し入れをやめましょうと言い出すから始末が悪い。
本当は、お前ら上役、年長がみんなを労うのがスジだろうっ!
ちなみに、過去にジャン=ポール・エヴァンを買って来たのは、キットカット買ってきてくれた人。
そして、みかん大福は、以前に私が買ってきたものなのだ。
まるで、プライベートで食べた様な口ぶりだか、自分じゃ買ったこともないのだろう。
あっ、思い出した。
ウンチクたれのハト吉が、唯一買ってきた差し入れは「温泉饅頭」
3ヶ月ほどの賞味期限を有する、保存料たっぷりの見るからに不味そうな一品。
しつこく勧めてきたので、仕方なく手を伸ばした。
予想通り、皮はバサバサ。
そして、角砂糖を食っている様な激甘アンコ。
激安感漂う代物だった。
そして、我々に問うたのだっ!
「どう?ちょっと時間経っちゃったけど大丈夫?」と。
「下手すりゃあ半年持つだろうさ。味は全然、大丈夫じゃねーよ。ノドが痛くなるほどの甘さだよ。グルメぶっているくせに激安饅頭買って来るんじゃねっ」とも言えず
「大丈夫です」と返すしかなかった。
話しは変わって、またまた最近の昼休みの公園。
二つあるベンチの一席で、職人らしきおっさんが足袋を脱いでガツガツと弁当を食べていた。
私は空いている隣のベンチに腰掛けた。
バックからビニール袋を取り出すと、ハト吉は袋を目掛けてバサバサと舞い降た。
私は息を止め、忌々しいとハトを睨み「しっ」と追い払うが離れようとしない。
隣のおっさんは弁当を一旦置くと、突如、足袋を思いっきりハトに投げつけた。
「ふんっ!」
驚いたハトは空に逃げ出す。
おっさんは巻き舌で怒鳴り散らした。
「二度と来るんじゃねーっ、この野郎っ!」
公園中に響き渡る怒声に、私も度肝を抜かれ恐ろしくなったが興味深い存在だった。
私よりもハトが嫌いな人がいる・・・
おっさんは、私の視線に気づいたらしく、こちらを見ずに自分が投げつけた足袋を睨みつけ、渡哲也の様な小声で呟いた。
「ハトだけは許せねえ・・・」
過去に一体何があったんだ。
聴きたい気持ちでいっぱいだったが、おっさんは足袋も取りに行かず、声もかけられないほど一心不乱に弁当をかき込んでいた。